あまはじノート

amahaji note

暮しの手帖社の戦争本(の中のオキナワ)

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暮しの手帖社の戦争本「なんにもなかった」と
「戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ」

●この日の後に生まれてくる人に

それは、言語に絶する暮しであった。 その言語に絶する明け暮れのなかに、人たちは、体力と精神力のぎりぎりまで持ちこたえて、やっと生きてきた。親を失い、兄弟を失い、夫を失い、子を失い、大事な人を失い、そして、青春を失い、それでも生きてきた。家を焼かれ、財産を焼かれ、夜も、朝も、日なかも、飢えながら、生きてきた。-花森安治 

 
上記は、雑誌「暮しの手帖」創設者花森安治が1968年夏に刊行された「特集 戦争中の暮しの記録」に書いたもの。

花森安治(はなもり やすじ、1911年10月25日 ~ 1978年1月14日)
 

暮しの手帖」は、1946年(昭和21年)に創刊(当時は別名義)、現在もスポンサーをつけず広告なしの体制で運営し続けている雑誌。


 戦争の経過や戦闘についてはくわしい記録が残されているけれど、その戦争の間を暮した人々が、なにを食べ、なにを着て、なにをおもっていたのかを、本人またはその親しい立場の人により文章としてまとめた市井(しせい)の戦争の記録。これまでに4冊の本としてまとめられている。

創刊当初から徹底した生活者目線をつらぬく雑誌らしく、戦禍での人々の暮しが痛々しいほどに伝わる内容。

 

その暮しの手帖社の戦争本の中に、沖縄の方が書かれた手記があるので紹介したい。今回とりあげるのは、「戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ」と「なんにもなかった」の2冊から。


「戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ」

154ページ「天の神様が見ているよ」より

 その時です。祖母のウタが意を決し、哲一と目の不自由な平助じいさんを連れて外に出ました。米兵の前に進み島言葉(シマクトゥバ)編注:沖縄の方言で「ここにいるのは幼い子供と年寄りだけで、兵隊や青年は一人もいない! 天の神様があなたたちのことを見ているよ。戦争は人殺しだからやめなさい!」と米兵の首を掴んで懸命に訴え、「どうか命だけは助けてくれ」と何度も何度も頭を下げました。

 

 投降を呼びかける米兵の声に、皆殺しになるのではないかと震えていたときのできごと。ウタさんが「ちゃーんならんさ(どうにもならない)!」と飛び出した様子が切実。

この本には、ほかに軍国少女だった当事者が米兵からもらったチョコレートを踏んづけたという逸話や、死に場所を求めて沖縄本島南部をさまよい、米軍の銃撃によって左腕切断をしなければいけなかった方の話も収録。その方は今も後遺症が苦しいと。米軍の魚雷により沈められた対馬丸の生存者である上原清さんの絵も紹介されている。

 
そして、できれば読んでほしいとおもうのが、「なんにもなかった」に収録されている「祖母の自殺 友利円」さんのページ。友利さんのおばあさまは、1945年(昭和20年)8月15日パラオで自殺を選ばれたのだそう。いうまでもなくこの日は戦争が終わったはずの日。


栄養失調で亡くなったと聞かされていたおばあさまがじつは自殺していた。ただ一度だけ自殺の事実を話されたというおじいさま。その理由がどのようなことなのかをここに書くことは、素材のひとつにしてしまうようにおもえてできないのだけれど。


戦争の中で、アンダーグラウンドな別の戦争が起こっていた。その見えない戦争に多くの人が傷つき力つきて自ら命をたった。人に話されることもなく一度も開けられることのない心の奥にしまわれたできごとがどれくらいあったのか? 

 
多くの戦争本を読んでいて感じるのは、男性目線で書かれたものが多いということ。戦争にジェンダーなんていらないのかもしれないけれど、「これは実際にはどのようなことになっていたのか?」と疑問を抱くことも多く。
 

たとえば、今筆者は「ひめゆりの塔をめぐる人々の手記」仲宗根政善著(角川文庫)を読んでいる。戦後の混乱の中、必然のおもいによりまとめられたというこの1冊の中にも見落とされている部分が無数にあるように感じる。(もちろんそれは本としての欠陥ではない)

 書かれた戦争の中に、男性目線からの切り捨てや枠外のできごととして視線を与えられず「消えていったやわらかいもの」がありそうな気がする。現代に生きるわたしたちがジェンダーという視点から戦争を眺めたとき、気づけることは意外に多いのかもしれないとおもう。

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タイチェンマイのお寺(わずかでも鎮魂になればとおもい掲載します)


www.kurashi-no-techo.co.jp

 

※紹介した2冊は、那覇市立図書館に収蔵されています。