あまはじノート

amahaji note

書籍「草 日本軍『慰安婦』のリビング・ヒストリー」

韓国の作家が描く日本軍慰安婦のものがたり

「草  日本軍『慰安婦』のリビング・ヒストリー」キム・ジェンドリ・グムスク 著、都築 寿美枝・李 昤京 翻訳 (発行 ころから)

korocolor.com

数センチの厚みを持つ500ページ弱の漫画のようなコマ割りで描かれたグラフィック・ノベル。この大作がこの世に生まれたことに感嘆するし、よくこのページ数を描ききったなと思う作品。ひとコマごと、1ページごと、見開きごとの完成度の高さに圧倒される。全編を通して途切れることなく続く作者の絵描きとしての想像力の果てしなさにおどろく。

作品の主人公は、第二次世界大戦中15歳で朝鮮半島から連れ去られ、中国の地で日本軍「慰安婦」にさせられた李玉善(イ・オクソン)さん。彼女の少女時代、日本軍「慰安婦」時代、戦後から現代への歴史を作者のキムさんが聞き取り、作品として仕上げた


黒1色で描かれる風景や人物から伝わるのは、上質な劇映画や練られた連続ドラマのような重み。本を開けば、その瞬間に風が吹き、人物の声や足音、息づかいが聞こえる。紙の上に描かれたそれぞれが、重厚なアニメーションのように画面の中で自在に動きまわる。

筆者は、石垣島の図書館に立ち寄った際手に取り限られた時間の中で走るように読んだため、感想らしい感想を書けないのが正直なところ。ただその中でも強く印象に残ったのが、真っ黒に塗りたくられたコマがしばしば登場すること。

李玉善(イ・オクソン)さんの慰安婦としての体験も、真っ黒なコマを数個並べて表現される。そのときに発生したであろう痛みや叫びを過剰なことばや絵で見せるのではなく、無言の黒だけで語る。ぎりぎりの体験は、しばしば激しい表現で描かれることが多い。けれども、それらの方法すべてをスルー。ただの真っ黒なコマだけで時間を経過させた、そのいさぎよさと無言の黒の強さよ。


日本軍慰安婦の話題は、戦争のトピックの中でも避けたい人がいる分野かと思う。日本軍慰安婦の話題となると、この場所(Japan)にいる多くの人が、盛大なる加害者の立場に移動しなければならないから。まあ、できれば避けたいですよね。


それでも、読んでください。


※作者であるキムさんのインタビューによると、この黒いコマは、当事者が本を目にしたときに二次被害を受けないようにと考えたものなのだとか。にしてもこの黒いコマは、激しすぎる体験=フリーズした黒い画面=止まった記憶のようにも受けとれ、作者の意図を超えた印象を残す。


ここから余談。
この記事を書いている間に、日本語話者の作家(漫画家)で、この作者ほどの力量でもって史実をたとえば沖縄戦を描ける人っているだろうかと想像してみた。筆者が思ったのは、松本大洋(まつもとたいよう)。松本大洋沖縄戦にはひっかかりがなさそうだし実現することはないと思うけれど。

沖縄戦の本のコーナー

石垣市立図書館の沖縄関連本コーナー。ガチの沖縄戦本が並ぶ。うしろを振り向くと……。

核・原爆本のコーナー

核・原爆関連の本が並んでいて。いろいろなことはつながってると思える配置になっている。


【注意!!】写真真ん中あたりの背表紙の文字を消しています。広河隆一という人物の本がこの位置にあります。この広河氏。パレスチナチェルノブイリを取材しながら、一方で自分の助手をつとめる女性に対して性加害を続けていた人物です。2019年8
人の当事者から告発があるも、本人は加害の自覚すらなくいまだ問題を山積させたまま。

それなのに、「多くの痛みを知る沖縄で、同様に痛みをかかえるウクライナのひとたちの写真展を開きたい」と、那覇市民ギャラリーで個展を開催(2022年7月5~10日)しようとしていました。(沖縄の女性が米兵からの性暴力を受け続けてきた歴史を知らないはずがないでしょうし、沖縄の人たちが広河の性暴力について知らないとでも?)

その個展のタイトル「私のウクライナ―惨禍の人々」。けれども、多くの人の反対にあい写真展は中止。日本軍慰安婦の書籍を紹介するページにその名を掲載することはできないため消しました。※この写真は、写真展より前に意図せずに撮っていたもの。

【追記】
筆者は、2022年6月21日〜26日に那覇市民ギャラリーで行われた「「復帰」50年写真展・沖縄写真の軌跡」を見学しています
。その際、那覇市民ギャラリーで広河氏の写真展の告知を見ました。まあ、びっくりしますよね。これ、いったいどうなるんだろう? と思っているうちに沖縄在住の方のSNSで反対の声があがりました。直接、ギャラリーに抗議の電話をした方もいたようです。

その後、沖縄タイムスの記者が広河氏に取材されましたが、反対される意味がわからない(=性加害をした自覚がなく反省もしていない)という対応だったとか。

数日後、気になって那覇市民ギャラリーを訪れると告知が消えており、スタッフの方にたずねると中止が決まったとの返事。筆者は、もしもこの写真展が決行されるのであれば会場に抗議に行くつもりでした。

性加害を反省してもない人が作品を発表できる場所は、世界中のどこにもない。演劇界や映画界の性加害のこともSNSなどで話題になっていますが、同様の気持ちです。

参照URL

ryukyushimpo.jp

www.okinawatimes.co.jp