あまはじノート

amahaji note

ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」

 Netflix配信ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」

※この記事では、ドラマ内の字幕で使われていた「自閉スペクトラム症」「障害」という表記を使用しています。

ウ・ヨンウ(우영우)は、韓国初の自閉スペクトラム症の弁護士。幼いころから法律書を正確に記憶し、大人になった現在も一度見た(読んだ)ものはすべて記憶する能力を持つ。

 

ソウル大学ロースクール法科大学院)をトップで卒業、司法試験をほぼ満点で合格したけれど、自閉スペクトラム症であることを理由にどの法律事務所にも採用にならず。

唯一入れた法律事務所「ハンバダ」では、「私はウ・ヨンウです。逆から読んでもウ・ヨンウ。キツツキ、トマト、スイス、子猫(こねこ)、南(みなみ)」と、これらのすべてを言わないと気がすまないとでもいうように自己紹介してしまう。そして、クジラやイルカの話をはじめると止まらなくなる。

理性的な同僚弁護士たちに、「ウ・ヨンウは、大丈夫か!?」と反応されるも、担当した一件目の事件で力量を見せその疑念は撤回される。


外出時は、イヤーマフが欠かせない。朝ごはん、昼のお弁当、夜ごはんのメニューは、いつもキムパ(のり巻き)。ほかのメニューは、味や食感が予測できないからいやなのだ。イヤーマフ=騒音をやわらげるためのヘッドフォン

 

食べる前に、キムパをきれいに並べるのはウ・ヨンウの習慣のひとつ。仕事をはじめる前に書類をそろえるのも大事だ。

 

仕事で上司の部屋や会議室に入る前に、ゆっくり3つ数えるのも忘れない。これは、急激な環境の変化に備えるため。

 

慣れたことはできるけれど、回転ドアをうまく通り抜けられずに、いつまでもクルクルしてしまう場面もある。


第3話の「ペンスでいきます」では、自閉スペクトラム症の被告人が医者を目指す兄を暴行して殺してしまうという事件を担当することになる。※ペンスは韓国で人気のペンギンキャラ

 

上司から「この事件は、ウ・ヨンウ弁護士にも参加してほしい。同じ自閉症だからわかることもあるんじゃないか」と言われ、「自閉スペクトラム症と言っても、その特徴は千差万別です」と答えるウ・ヨンウ。(せりふは大意です)

 

被告人ジョンフンは知的障害があり、精神年齢は6~10歳(実年齢は10代後半?)。

 

事件について質問しても対話が成立しないジョンフン。そのジョンフンに弁護士として質問を重ねるウ・ヨンウ。

 

同じ自閉スペクトラム症でありながら社会で活躍するウ・ヨンウに、ジョンフンの両親は、「自閉症の子には賢い子もいると聞いていたけれど……。ほとんどはうちの子みたいでしょう?」と複雑な表情を見せる。



物語は、社会におけるふたりの立ち位置の違い、自閉スぺクトラム症としての共通点、世間から受ける風当たりなどを折り込みながら進んでいく。

ウ・ヨンウは、仕事の場では実力を発揮している。けれども一歩世間に出れば、挙動不審者、”できない人”(第3話では、タクシーの運賃が払えない人とみなされる)、保護すべき人とみなされることも多いのだ。

ジョンフンの事件が世間に知られるようになると、掲示板に差別的で侮蔑的な意見が投稿されるようになる。

「障害者じゃなく医大生が死んだ」「国家的損失」「自閉症でも刑務所に入れろ」「正直、怖い」……

医大生の兄と自閉スぺクトラム症のジョンフンの存在価値に、「いいね」の数で優劣がつけられていく。


ウ・ヨンウのモノローグ。
自閉症の医師ハンス・アスペルガーは、自閉症の肯定的な面を見ました。彼は言いました。”正常”ではないからといって、劣っているわけではない。”独創的な思考と経験で驚くべき成果を上げうる”と。

でも彼はナチスの協力者でした。生きる価値のない子を選別していました。障害者、不治の病の患者、精神疾患者などでした」

「わずか80年前、自閉症は生きる価値のない病気でした。わずか80年前、私とジョンフンさんは、生きる価値のない人間でした」


「今も数百人の人たちが、””障害者じゃなく医大生が死んだのは国家的損失”。このコメントにいいねを押します。それが私たちが背負う障害の重さです」

このドラマ。韓国では、毎週水・木曜日の21時に放映され、最終回では視聴率17.534%を記録するほどに親しまれた。

 

あくまでも明るく見る者を楽しませるドラマに、ナチスの話と映像がさらりと登場することにおどろく。多くの人が気軽に視聴しているはずのゴールデンタイムのドラマにだ。

ナチス掲示板への書き込みを登場させることで、自閉スペクトラム症であるというだけで命がとられることもある。今だって、同じようなことが起こっているんじゃないか? 起こらないとはいえないんじゃないか? と視聴者に問いかけているのだ。


「私の名前は、”英祐(ヨンウ)”と書きます。意味は、”花のように美しい福の子”。でも賢く愚かな”怜愚(ヨンウ)”のほうが私に合うのでは? 

読んだ本は、全部覚えているけれど、回転ドアも通れないウ・ヨンウ。賢く愚かなウ・ヨンウ」

「私はみんなと違うから、なかなか溶け込めないし嫌われることも多いです。それでも平気です。これが私の人生だから。私の人生は、おかしくて風変りだけど、価値があって美しいです」と最終話でつぶやくウ・ヨンウ。


社会にあるさまざまなテーマ、ウ・ヨンウの奮闘と迷い、自閉スペクトラム症への偏見を描き出す「ウヨンウ弁護士は天才肌」。全16話。どの回も見ごたえがあり視覚的にも楽しめる。

www.youtube.com

[이상한변호사우영우(ウヨンウ弁護士は天才肌) OST | MV ] Part.2 선우정아(SWJA) - 상상(Beyond My Dreams) (Official)

【メモ】
ウ・ヨンウの世界にはたくさんのクジラやイルカ、シャチが住んでいる。

 

事件の解決にひらめきが生まれれば、クジラがざっぱーんとブリーチングするし、ウ・ヨンウの心がはずんだときはクジラやイルカ、シャチがソウルの街を回遊する。ウ・ヨンウの気持が沈めばクジラは海に潜ってしまう。

高層ビルの窓の外やソウル市中に流れる漢江(はんがん=川)の上空を回遊するクジラの場面は、中でも特別だ。

 

【余談】
ウ・ヨンウにはじめて会った同僚弁護士が、「この人があの?」と言いながら、ウ・ヨンウを指さそうとする場面があった。

 

とっさにウ・ヨンウの上司が、そういうことはやめてもらいたいとばかりに、弁護士の指を手のひらでおおって降ろさせる。

指をさす前に察してすぐに阻止したところがいいなと思った。こういうとき、ただだまって見ている必要などないのだ、ということを教えてくれる場面だった。