あまはじノート

amahaji note

【香港】ドキュメンタリー映画『JOSHUA』

英語圏に住む日本語の達者な人が、「香港民主化団体・学民思潮のリーダー黄 之鋒(ジョシュア・ウォン / Joshua Wong)についてのドキュメンタリー『 JOSHUA』を観るとよい」と書いていたので観た。

 

※『 JOSHUA』は、2023年2月現在ネットフリックスで配信中

www.netflix.com

 

Hong Kong's Protest: Meet the Voice of a Generation | Time


黄 之鋒(ジョシュア・ウォン / Joshua Wong)

”世界最年少の天才ゲーマー”とか”史上初の天才学生棋士”などと紹介されても違和感を感じないであろうジョシュア・ウォン(以下ジョシュアと表記)。


10代にして政治家と対等にやりあう知性と冷静さを持つ。すでに一定の地点に到達している人物だとしか思えない。このドキュメンタリーを観るかぎり、もはや”偉大”としかいいようがなく、その”大きさ”に感嘆してしまう。


文字だけではほとんど伝わらないと思うけれど、映画から一部を紹介する。

ジョシュア「キリスト教徒である僕は、13歳の時に貧しい家庭を訪問しました。そこで福音を説き祈りました。1年後に同じ家庭を訪れて祈るだけでは何の変化も起きないと気づきました。行動こそ変化をもたらすのです」

映画『 JOSHUA』より

そう話すジョシュアの活動は14歳からはじまった。

香港は150年間もの間イギリスの統治下にあったが、1997年中国に返還される。その返還には、一国二制度を50年間続ける」という条件があり、香港は特別行政区として高度な自治権が与えられるはずだった。

しかし、2012年香港の小中学校で愛国教育(中国への愛国心を育てる教育制度)を必修化すると香港行政府が発表。

愛国教育=洗脳教育だとし、国民教育の撤回を香港政府に要求するため、ジョシュアをはじめとする高校生たちが民主化団体『学民思潮』を結成。

路上での演説、チラシ配り、署名などの抗議活動を開始。※学民思潮の立ちあげには、周 庭(アグネス・チョウ)も参加。その姿が映像に写っている。

抗議活動をはじめて間もないころ「どこの団体ですが?」と街頭演説中にあらわれた警察官に聞かれ「学民思潮です。(中略)大人数で脅してもムダですよ」と余裕(かどうかはわからないけど)の発言。

相手が誰であろうとぐいっといく。ほんとうの相手は別にいるんだから警察にひるんでる場合じゃないし。

 

ジョシュアたちは、あいまいな香港行政府の態度に対抗し、国民教育の導入4日前に政府庁舎前広場の占拠を実行。

広場を「シビック・スクエア」と名付け国民教育の撤回まで占拠を続けると発表する。

シビック=”市民の”という意味

ジョシュア「要求はただ1つ。次の世代へ続く”自由”です」

マスコミ「警察が実力行使に出ることに不安はありませんか?」
ジョシュア「その必要はありません。我々は平和的で合理的かつ非暴力を貫きます。警察にも同様の態度を望みます」

映画『 JOSHUA』より


広場の占拠2日目 行政長官・梁 振英(Leung Chun-ying)が現場を訪問。

ジョシュア「遊んでいるのではありません。なぜ軽視するんですか?」
行政長官「正式な導入は3年後だ」
ジョシュア「学民思潮は試験導入にも反対です。今回認めれば国民教育に賛成したことになります。試験導入後に正式な国民を撤回することはありえないのでは?」

映画『 JOSHUA』より

 

相手が行政長官であってもぐいぐい発言していく。試験導入なんてことばでごまかすなよって感じなんだろう。

行政長官との対話後マスコミに向かって「彼は体裁のために対話を取り繕っただけなのです」と。これが14歳の発言なのか!? このあたりでジョシュアすごいなと思うしかなく。

広場の占拠4日目 TVや新聞に掲載されたジョシュアたちの活動を知った学生や市民がシビック・スクエアに押しよせ、その数は4,000人以上になった。

「梁 振英! 国民教育を撤回しろ!」

広場の占拠9日目 政府に圧力をかけるため黒服集会(黒い服を着て集まる)を計画。広場も4車線の道路も、歩道橋、公園も集まった群衆でいっぱいになった。

「国民教育撤回! 国民教育撤回!」

12万人を集めた黒服集会の後、2012年9月8日「各学校に裁量をゆだねる。香港において義務化しない」として事実上の義務化を撤回。

高校生の団体がはじめた抗議運動が成功した瞬間だった。

2013年3月 習近平(シー・ジンピン)が中国の国家主席に就任すると、香港の自治権と自由は目に見えて抑圧されていくことになる。

黄 之鋒(ジョシュア・ウォン ) 映画『JOSHUA』より


2014年9月 香港での普通選挙を求める抗議運動「雨傘運動(革命)」では、ジョシュアたちは中環エリアの路上を占拠しその場で寝泊まりをした。

大学生たちが授業をボイコットして参加するも、香港警察による唐辛子スプレーと催眠弾の攻撃を受ける。

平和に続いていた運動に権力が介入したのだ。

路上占拠1ヶ月後にジョシュアがハンストを開始。ハンストは15日間におよぶが、中国側はジョシュアたちの要求受け入れを拒否。

ジョシュアたちは、港警察の介入により79日目に強制排除される。抗議活動は終結、失敗に終わり、クレーン車で釣り上げられたテントは破棄された。

映画は、学民思潮の解散発表、ジョシュアたちが立ちあげた政党『香港衆志(デモシスト)』から羅 冠聰(ネイサン・ロー)が選挙に出馬・当選、しかしその資格をはく奪されるところで終わる。


ジョシュアはその後、デモシストからは脱退。

2021年2月28日国家安全法により起訴され、2023年2月現在も収監中。フェイスブックの更新は許されているようだ。

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雨傘運動の主導者のひとりだった周 庭(アグネス・チョウ)は、デモシストからは脱退。

無許可集会扇動罪で2020年12月から約7カ月収監される。フェイスブックを削除、インスタ、ツイッターは更新なし。無言の状態が続いている。


もう一人の主導者羅 冠聰(ネイサン・ロー)は、「香港国家安全維持法」の制定後に香港を脱出。現在はイギリスで活動を継続している。


※「香港国家安全維持法」の制定により雨傘運動で使われた「光復香港、時代革命(=香港を取り戻せ、時代の革命だ)」といったスローガンを発すること、アプリで政治的なメッセージを送信することも罪に問われる行為となった。


※香港返還後の流れについては、下記ページがくわしい。雨傘運動にもふれている。

www.nikkei.com


映像作品として
すべての場面、短くも長くもないジャストな展開で、一コマも余分がなく、また不足もない。時間を意識させない編集。ナレーションなし。加えて、人物のインタビュー画面が非常に簡潔で、ここだ、という黄金の箇所のみ生かす。

画面の中では時系列が進んでいて、ずっとなにかが起こり続けている。けれど、観客を事件にまきこもうとせず、冷静に判断させてくれる余地を残す。結果、ジョシュア・ウォンの人物像がきれいに伝わる作品になっている。

監督の名前は記憶できなくても、この映画は何度も観ると思う。

【メモ】
抗議運動の目的と相手が明確。自分たちの行動の効果をつねに考え、成功なのか失敗なのか、渦中にいて的確に状況判断できる知性を持つ香港の活動家たち。

逮捕・収監されても変わることのない意志・目的の強さに圧倒される。

デモや広場の占拠責任は自分たちにあるとジョシュアたち主催者が自覚してもいるのもいい。

(「責任をとるのは自分だ」ということばを久しぶりに聞いた気がする。日本にいると、ぼんやりとした回避しか聞こえてこないので)

黒服集会(黒い服を着て集まる集会)のように、参加者の自覚と運動への共感・一体感を高める演出がうまいなと思った。