あまはじノート

amahaji note

ドラマの中の詩『練炭一枚』アン・ドヒョン

韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌(이상한 변호사 우영우)』(Netflixで配信中)の12話に、詩の朗読場面がある。


ドラマ中で朗読されるのは、韓国のアン・ドヒョン(안도현・安度昡)という詩人の作品。文字起こしをしたので紹介する。

 

※ドラマの翻訳を担当する安河内 真純というかたの訳です。

練炭一枚』アン・ドヒョン

いろんな言葉があるけれど
人生とはー
誰かのために喜んで
練炭一枚になることだ
床が冷えてきた日から
春がやってくるまで
朝鮮八道で一番美しいのは
練炭車が音を立てて
丘を上っていく風景なのだ

自分のすべきことが分かっているかのごとく
練炭は一度 自分の体に火がつくと
延々と燃え続ける

(中略)

考えてみれば 人生とは
自分を粉々に砕くことなのだ
雪が降り滑りやすくなったある日の早朝
私ではない誰かが 安心して歩けるよう
道を作ってあげることも知らなかった


『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌 12話 ヨウスコウカワイルカ』より
日本語訳:安河内 真純

※2023/3/25 著作権を検討し、詩の一部を中略としました。

”床が冷えてきた”は、寒い冬の到来の表現だろう。オンドル(床暖房)に練炭をいれて暖めれば、部屋だけではなく人の心も温まる。ふと、冬の朝鮮で人びとを暖める練炭のようにわたしは自分自身を燃やしつくし、人を温めるように生きてこれたのだろうかと考える……。

朝鮮の冬の光景と作者の心象が降り積む雪のように静かに伝わる詩。ネットで検索すると、幾人かのかたがこの詩を訳されていた。筆者には、この安河内さんの訳が好ましく思えた。

なぜ、練炭一”枚”なのか。この練炭は平たいのか、朝鮮では”枚”があたりまえなのか、 練炭車が走っていたのはいつの時代なのか、今も走っているのか、練炭車は文字通りの車なのか、それとも木でできた運搬具なのか? 原語では、練炭車の音を描写しているようにも思えたけれど?

いろいろ不明な箇所は知らないままでもいいし、そのうちどこかで知ることになるのもいいかなと思う。

わからないことを調べないまま放置しておきたい派ながら、”朝鮮八道”という表現だけは調べた。どうやら、朝鮮全土を意味する呼び方であるらしい。

朝鮮八道(ちょうせんはちどう)=八道とは、李氏朝鮮時代にとられた地域区分で、咸鏡、平安、黄海、江原、京畿、忠清、慶尚、全羅道が属する。 400年以上にわたって同一の区分が用いられたため、「八道」は転じて「朝鮮全土」のことも指した。

この詩は、分断のないころの朝鮮半島に気持ちを重ねたものでもあるのかもしれない。

【メモ】

ウ・ヨンウの12話は、女性の労働問題と男女格差がテーマ。ウ・ヨンウの相手方の弁護士が女性や労働問題、人権の裁判をあつかう人で、ウ・ヨンウがこの人をヨウスコウカワイルカに例えているのがおもしろかった。

また、裁判という場においても韓国の族譜(が適切なことばかどうか不明。家系図ですね)での位置関係(苗字や出身地が影響を与える)が心情に影響を与えるのも興味深かった。

ウ・ヨンウは、キラキラしたドラマといわれているようです。確かにキラキラした場面もありますが、社会的なことに興味がある人にも見ごたえがあるのではと思います。今回の12話、詩の朗読場面の設定がとてもいいので、気になったかたは視聴してみてください。

www.netflix.com

【余談】
韓国のドラマや映画のいいところは、地声が高めの人はいても、意識的に作った高い声で話す人が登場しないことです。みんなが低い声で話すので、聞いていて落ち着ける。韓国語そのものが低めの声で発話するのに適しているのかもしれません。