石川真生さんの作品展「大琉球写真絵巻 2021」に行った。「大琉球写真絵巻」は、薩摩の侵略から現代までの沖縄の歴史的なできごとを真生さんなりのイメージで撮影したシリーズで、1年に1回のペースで発表している。
▶「大琉球写真絵巻 パート8」
2021年8月17日~8月22日まで那覇市民ギャラリー(パレット久茂地6階)で開催。
2021年の今回はパート8なのだが、これまで目立っていた劇場型の演出が入る作品は少なめ。今回は、宮古島、石垣島、与那国島に造られた陸上自衛隊のミサイル基地や演習場の反対運動をする人たちが登場している。
今回強く感じたのが被写体へ注ぐ真生さんの愛情だった。なんだか妙に穏やかでやさしい写真ばかりなのだ。もちろん、辺野古や浦添西海岸埋め立てへの抗議がテーマの作品もあるのだが(伊礼ゆうきさんすてきでした!)、それらの写真すらもとてもやさしく感じられた。(もしかして筆者が弱っているからそう感じる!?)
これまでの多くの作品で表現されていたストレートな怒りではなく、反対運動をしている人たちの仕事場や現場にたたずむふだんの様子。気張らない姿、無理に笑うことすらしていない姿が多く、見ている者たちも画面の中にすっと入っていける。そして、なによりも写真が美しいことにおどろく。
このたとえが適切かどうかはわからないが、一周まわって毒が抜けたというのか。毒をもって毒を制した結果、むちゃくちゃ健全な状態に寛解(かんかい)したというのか(言い方よ……)。これまでにない真生さんだった。
真生さん自身もトークの中で話されていたのだが、今年は反対運動をしている人たちの生活を撮ってみようと思った。そのようなふだんの姿と演出のある作品、楽しい作品を混ぜるのがいいんじゃないか、訴える作品ばかりだとキツしいしんどいよねと考えたのだとか。
トークショーのために、スタッフやお客さんが真生さん用の椅子を準備しようとするのだけれど、いつものように断っていた。トークの開始時点で息切れがしていても、断っていた。立ったまま話すこと自体かなりしんどいのではと思われるのだが、断っていた。(3回も書くな?)なぜ? って思う人もいるかもだけど、これは真生さんなりの筋の通し方。
右の黒っぽい写真は、前宮古島市長が自衛隊基地誘致に関して千代田カントリークラブ社長にワイロをおくり退任後逮捕されたできごとがテーマ。「なんで、退任してから逮捕するわけ~?」と。公民館がロケ地というのがいい。
トークの中で、「私の写真は報道写真ではない、撮ることに使命感もない」と話されていたのが印象に残った。社会運動=報道ではないし政治でもないからね。また、宮古、石垣、与那国を撮るのは、沖縄を撮るといっておきながら、自衛隊が進出してきていることを2019年になるまで知らなかったことの後悔が大きいとも。
与那国島の馬が写り込んでいる写真があった。かつて人間が食用馬として売り出そうとして他の種をかけられた与那国馬たち。すでに自然交配も進み純血種には戻れない。それでも自衛隊が来るまでは平和に牧場の中で暮していたのだが、自衛隊が来てからは路上に追い出され放浪するように暮しているのだという。
沖縄の写真家石川真生。次のパート9がどのように変容するのか心から楽しみだ。
緊急事態宣言が発令されコロナが蔓延している沖縄。それでも時が止まることはなく、歴史はどんどん動いている。だから私も動く。撮りたいから。みんなに観てほしいから。沖縄島も含めて、私の撮影はこれからも続く。
石川真生
何度もゼロ地点にもどされるような空気がある今。創作することにもさまざまな抑圧がある。それでもやめないしやめられない。だって、生きているのは今だけだから。
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