旧日本軍の731部隊がモチーフと聞いて鑑賞した『京城(けいじょう/キョンソン)クリーチャー』。1945年、日本の植民地下にあった京城(現ソウル)が舞台のクリーチャードラマ。
京城の、おもてむきは一般病院の地下で、満州から撤退してきた731部隊が秘密裏に人体実験をおこなっている。その病院で誕生したクリーチャー(=意図してつくられた変異体)と周辺の人間たちとのかかわりで展開するストーリー。
※クリーチャー(creature)は、獣(けもの)や想像上の生きもの、怪物を意味する。
以下、ネタバレがあります。観たかった作品だ、という方は読まないで鑑賞にすすまれることをおすすめします。
特に意識していなかったという方は、読んでみてください。どうぞ。
印象的なポイントがふたつありました。
●ひとつめ
731部隊(正式名は、関東軍防疫給水部本部)が満州から撤退する冒頭シーン。
すべての研究資料と研究記録は本国に送るが、「持ち出せないものは、すべて焼却するように」のせりふに続く場面。
人体実験の材料だったマルタが、”持ち出せないもの”として、穴に打ち捨てられ、また銃で撃たれ、建物ごと燃やされる。(マルタ=人体実験の材料の人間をマルタと呼んでいた)
この冒頭7分30秒ぐらいまでの映像がすばらしかった。史実を創作の映像としてみせる手法に、「リアルで、うまい構成だな!」と感心。
ただ、映像として不快感を感じないようにきれいにつくられているはずなので、「リアル」とは違うよなと、あとで思い返しましたね。
しかしながら、韓国ドラマの水準の高さ(特に映像)、史実を創作上で描く技量の高さを感じさせる7分30秒であることはまちがいないです。
●ふたつめ
”植民”される側の目線で発せられるせりふ。
特にはっとしたのは、「生まれたときから植民地だし」というせりふ。
ほかには、
「また朝鮮人が、加害者側に仕立てられた」
「いつものパターンだ」
「ヤツらの罪を隠すために、事実をゆがめたのさ」
「そして隠せなかったら、また朝鮮人を責めるはず」
「関東大震災のように」
「何でも朝鮮人のせいにできて、さぞ便利でしょうね」
「朝鮮語は違法だ、朝鮮人。分かるように話せ」に対して、「朝鮮人が朝鮮語を話すのは違法で、お前たちの行為は合法なのか?」
「こんなに苦しくても、皆が耐え抜いている理由は、どんなに屈辱的でも生き残るべきだからです。生き残らないと、その事実が忘れられてしまうから」
などなど。ものがたりが進む過程で、自分たちの国を植民地とされた側がどのような思いだったのか、を登場人物のせりふとして投げ込んできます。
全編を観たあと、このドラマは、植民される側の生活やうばわれた権限を描きたかったのでは? と思ったですね。
以上が、筆者がひかれた点です。作品としての魅力をどこかに見いだせればいいという鑑賞法なので、ストーリー展開やせりふの日本語訳に(筆者にとっての)不足は感じながらも全10話を鑑賞しました。
おすすめできるかどうかでいうと、現在Netflixを契約している人ならどうぞ、という感じです。
あと、ダークな画面が好きな人、特に映画版の「返校」(台湾映画)が好きな人は、美術の美しさが楽しめると思います。
⦅余談⦆
731部隊がモチーフ、加えて植民地下の朝鮮が舞台。そのせいもあるのか、Netflixではあくまでクリーチャーものとして広告されており(日本に向けてのみの配慮の可能性あり)、旧日本軍の細菌兵器製造や人体実験のことには、ふれていない。
じっさい、731部隊はものがたりの背景として使われているだけで、731部隊を告発するようなつくりではない。
ドラマの中でも、731部隊という名称は、具体的には登場しない。けれども、壁一面の旭日旗やガスマスク、実験材料(=人間のこと)の「マルタ」という呼び名、あるマルタの胸につけられた布に「七三一」の手書き文字、ホルマリン漬けの人体の頭などから、731部隊モチーフだとわかります。
このドラマ、日本では、歴史的な事実の映画での描かれ方(特に日本軍の所業)に不満をいだく人がいるようです。(日本国内の感想口コミ参照しました)
いやな感じとか、耐えられないとか、出演俳優に対して「こんなドラマに出たら日本での人気がなくなる」など。なかには、反日ドラマと感想を書く人も。
「旧日本軍、めちゃくちゃやな」とか、「こんなことしてたわけ~?」などとは思わないのでしょうかね。朝鮮に関していえば、35年間、日本はこの映画のようなこと(植民地支配)をやっていたのですがね。
『京城クリーチャー』にしてもそうだけれど、映画やドラマで描かれる史実の描写は、おそらく現実におこったできごとにはおよばないでしょう。
それでも、韓国映画や韓国ドラマは、創作上で生み出せる表現を極限までおしあげていると思います。
※ドラマでは、京城(現ソウル)の病院で人体実験があった設定ですが、これはドラマ上の創作だと思われます。
※史実と創作映画での描かれ方に関しては、崔盛旭(チェ・ソンウク)さんのインタビューが参考になります。韓国生まれで韓国の教育をうけた人の視点についても知ることができます。また、聞き手が日本生まれで朝鮮学校に通った記者の方なので、インタビューとしての設定が盤石です。
植民地時代を生き抜く方法は、あらがうか従うかの二者択一だけではなかったはず。あの時代のトラウマは、その後、韓国人にとっても「怪物」になったのではないか。『京城クリーチャー』を見ながら、堅苦しい歴史の呪縛をエンターテイメントとして見直している韓国ドラマの振幅の広さを改めて感じた。 pic.twitter.com/1wpN3desEq
— 崔盛旭 (@JinpaTb313) 2024年1月7日