あまはじクロニクル

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apple TV 配信ドラマ「Pachinko パチンコ」

2017年ごろ。英語圏に住む日本語の達者な人が書いていた。「こちらでは、ミン・ジン・リーという作家の”Pachinko”という小説がヒットしている。わしも今読んでいる」。その後、小説「パチンコ」は日本でも出版(2020年)。

そして、小説「パチンコ」を原作にしたドラマ「Pachinko パチンコ」が、apple TVのオリジナル番組として公開された(2022年)。

apple TVオリジナルドラマ「Pachinko パチンコ」

Pachinko パチンコ
生きていくため、そして豊かな暮らしを求めて祖国を離れた韓国人一家。その夢と希望への道のりを4世代にわたり描いた壮大な物語。ニューヨークタイムズ紙のベストセラーとなった小説が原作。

apple TV Pachinko パチンコサイト より

▼画像左から
主人公ソンジャの子供時代 チョン・ユナ、実業家コ・ハンス役 イ・ミンホ、ソンジャの夫イサク役 ノ・サンヒョン、主人公ソンジャの10代 キム・ミンハ、ソンジャの次男モゼス 新井総司、ソンジャの孫ソロモン役 ジン・ハ、ソンジャの老年時代 ユン・ヨジョン、ほかに、南果歩も永富越子役で出演


これは筆者の狭い知見になる。日本でも小説「パチンコ」はいくらか取り上げられた(雑誌でも紹介されていた)。けれどもドラマ「Pachinko パチンコ」は、日本語圏のSNSやwebの記事では、ほとんど見かけなかった。

その理由は? 「apple TVの配信だからじゃない?」という人もいた。けれども、「日本の朝鮮植民地時代と在日朝鮮人の日本での立場を”朝鮮人”の視点で描いた作品だから」歓迎されなかったのではないか? と想像する。

なにしろドラマは、

1910年日本は領土拡大のため大韓帝国を植民地化した
当時多くのコリアンは生活の糧を失い海外に移住せざるをえなかった
それにもかかわらず植民地下で耐え忍ぶ人々や家族がいた
ある家族も数世代にわたり苦難に耐えた

apple TV Pachinko パチンコ より(※字幕を抜粋)

から始まり

植民地時代200万人のコリアンが移住した
そのうち約80万人が日本政府により労働者として連行された
第二次世界大戦後その大部分は祖国に戻った
しかし60万人以上は日本に残り無国籍状態となった

apple TV Pachinko パチンコ より(※字幕を抜粋)

で終わるのだから。

生まれ育った釜山(プサン)を出立し大阪に向かう前の日。故郷を離れる娘(ソンジャ)に、白米を食べさせたいと市場に出向いたソンジャの母。穀物店で白米を買いたいと申し出るも「白米は日本人にだけ売るものだ」と返される。

1980年代植民地下の釜山から大阪にやってきたソンジャと夫イサクがお互いに、「ここの人たちに歓迎されてない気がする」とつぶやく。

「知らない場所に行くのがこわい。ここに来てからずっと安心できない」とソンジャの義理姉が言う(異国の地に暮らす不安に加えて、周囲からの差別的な目線のせいでもあると思われる)。

ソンジャの孫ソロモンが、学生時代の友人相手にふと口にした言葉。「おれ、おまえに昔言われたことを思いだしたわ。”うちのおとんが言うとった。朝鮮人は犬に育てられたんや。せやなかったら、みそ汁にごはんを入れて食べへんやろ?”って」(注:正確には”みそ汁”ではなかったか?)

なぜ”犬に育てられた”になるのか? 韓国・朝鮮では、汁ものにごはんを入れて食べる食習慣がある。それを犬の餌にたとえて、”おまえらは動物並みだ”と侮蔑しているのだ。

関東大震災を被災したハンス自身が、目の前で目撃する”朝鮮人虐殺”の場面。

老年になったソンジャが十数年ぶりに訪れた釜山で伝えられる友人の話。太平洋戦争当時、満州に仕事があると聞いて応募したが、それは日本軍に仕える慰安婦の仕事であったこと(ドラマの中では、直接”慰安婦”の話題としては語られていない)。

 ※せりふ部分は、大意です。

日常生活の会話に、植民地政策下での侵害、差別、侮蔑があたりまえのように登場するのだ。

ほかに、アメリカで留学・就職したソロモンが会社の上司に、「待ってくれ君は日本人では?」と聞かれ、「日本で育っただけです」とさらりと答える場面もあった。これは、複雑な在日韓国・朝鮮人の立場を象徴するせりふである。

ソンジャというひとりの人物とその家族の姿を通して、植民地下に生きることの厳しさ、通底して流れる支配者日本からの差別と抑圧が描かれるドラマ「Pachinko パチンコ」。

筆者にとっては、植民地として土地や文化、尊厳をうばわれ支配されることの「哀しさ」、異国で暮らすために海を渡ることの底知れない「不安」、歴史に選択肢をせばめられ判断を強要される「苦しさ」を描いた物語だった。


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ドラマのオープニング。パチンコ台は、セットのために当時のものを日本からアメリカに輸送したとのこと。

ところでなぜ”パチンコ”なのか? 日本に渡ってきた朝鮮の人たちは、日本の企業に就職することができなかった。その中で、生業としてパチンコ屋の経営を選んだ人たちがいたということ。パチンコは、在日韓国・朝鮮人の生業のひとつだったのだ。

ドラマの中では、ソンジャの次男モゼスがパチンコ店を経営している。ソンジャとモゼスが住む家をみればその起業が成功したことがわかる。

筆者の余談
出演者が、韓国生まれの韓国人、日本生まれの韓国人、アメリカ生まれの韓国人で構成されている。出演者たち自身も激しい歴史を生き抜いてきた強い人たちの末裔なのである。

韓国ドラマの”子役の演技がうますぎる”問題。今回も例外ではなかった。

最終話終了後。現代日本に生きる在日韓国・朝鮮人の人たちへのインタビュー映像があった。言葉のアクセントから関東在住の人たちかと思う。もちろんそのことになにも問題はない。


けれども、主人公ソンジャが渡ってきたのは大阪。現在も多くの在日韓国・朝鮮人が住まう「生野(いくの)」と呼ばれる地域(かつては猪飼野=いかいのと呼ばれ、現在は生野区と区分されるエリア)である。


できれば、その生野区に住まう人たちをインタビューしてほしかった。