あまはじノート

amahaji note

台湾のロックバンド・滅火器 Fire EX. と『島嶼天光(Island's Sunrise)』

Fire EX. (滅火器)(ファイヤー イーエックス) | SPACE SHOWER MUSIC

<左から>Kg(柯光)ドラム 、Sam(楊大正)ヴォーカル&ギター、ORio(鄭宇辰)ギター、JC(陳敬元)ベース     https://www.facebook.com/FireEX


滅火器 Fire EX. 

滅火器 Fire EX. (ファイヤーイーエックス)は、台湾(中華民国)の南部にある高雄(たかお/ガオション)出身のロックバンド。ギター2人、ベース1人、ドラム1人の4人編成。※滅火器(=ミエフオチィ)、英語名:Fire EX. (ファイヤーイーエックス)

”滅火器”には、消火器という意味がある。最初はなぜ滅火器(消火器)なのかと疑問だったけれど、今となってはいい名前だなと思う。

音は、無骨でストレートなロック。ときにパンクと称されることもある。ただ、パンクを反骨・反体制なものとするなら彼らはパンクではない。(反骨ではあるけれど)むしろマジメに友情や希望を歌うバンドだと思う。

 

台湾語

彼らの音楽の最大の特徴は、台湾語で歌唱すること。この台湾語をなんと説明すればいいのか……。

台湾語は、台湾で一般的に使われている中国語(台湾では”「國語(こくご/グォユウ)」や「中文(ちゅうぶん/ゾンウェン)」と呼ぶことが多い)とは別の体系を持つ言語。年配の人や中南部生まれの人に話者が多い。

※年配者の中には台湾語しか話せない人もいるし、若者の中には話せないけど聞けば理解できるという人もいる。余談になるが台湾には、國語、台湾語以外にも、客家語、原住民が使う言語が複数存在する。

台湾語は、野性的で土くさい印象がある。滅火器 Fire EX.  以前にも台湾語で歌うミュージシャンはいたが、土着性をそのままに歌う人が多かった。滅火器 Fire EX. はその土っぽさを、力強さと温かさに変換することに成功したバンドだと思う。

台湾・ひまわり学生運動
2000年のデビュー以来インディーズとして活動していた彼ら。2014年に起こった社会運動で一気に知名度をあげることになる。その運動の名は「台湾・ひまわり学生運動」。

”学生”が”国会を占拠”し、自分たちの国にとって好ましくない”法律を阻止”したという台湾の民主主義に鮮烈な印象を残した社会運動だ。

・台湾・ひまわり学生運動(台灣・太陽花學運=タイヤンファシュエイン)
2013年6月に調印された海峡両岸サービス貿易協定(中国と台湾の貿易の自由化を謳ったとりきめ)の批准に反対した学生たちが行政院(=国会)を23日間(2014年3月18日~4月10日)にわたり占拠(同時に行政院前の青島道路に、台湾各地から集まった学生や市民が座り込みそこで寝泊まりした)。その結果、海峡両岸サービス貿易協定の批准を撤回させることに成功した。


・なぜ、”ひまわり”なのか?
運動のはじまりのタイミングで、ひまわりの花が行政院(=国会)に届いたのがきっかけとなりこの運動を象徴する花になったといわれている。台湾には、過去に「野百合学生運動」という民主化運動もあった。どちらも花。

 

島嶼天光(Island's Sunrise/ダオユウティエングアン)』
滅火器 Fire EX. が運動に参加していた学生から依頼を受けて生まれた『島嶼天光(Island's Sunrise)』は、ひまわり学生運動のアンセムソングとなった。

島嶼天光(Island's Sunrise)』は大きなフラッグが風を吹かせるように台湾中に広がり、行政院(国会)の中で、応援する学生や市民が集まる青島道路の路上で、全国の学生や市民に歌われつづけたのだ。

この楽曲が台湾語であったことの意味は大きかったと思う。なぜなら、台湾語で歌うことにより台湾島のすべての人に届いたから。運動から誰をも阻害しないとこの楽曲が伝えていたと思うのだ。

これが國語の楽曲であったなら、自分たちには響かないと感じた人もいたと思うし歌詞を理解できない人もいただろう。運動そのものがちがったものになっていたかもしれない。

この運動は学生からはじまったが、あらゆる年齢の人、あらゆる職業の人が参加した。特に印象的だったのは、農業にかかわる人たち。自分達の作る作物が中国との交易でかきまわされたらたまらないとばかりに、行政院(国会)の前に農作業用の編み傘をかぶって座り込んでいた姿を記憶している。


台湾と政治
ひまわり学生運動の成功により、台湾の政治と市民、特に学生たちの政治に対する意識は格段に進化したと思う。「自己的國家自己救(自分たちの国は自分たちで救う)」は、運動の中でよく使われたことばだ。百年かけて民主主義を追求する。自分たちがその責任だと自覚している人たちの国・台湾はとてもまぶしい。

 

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ひまわり学生運動の現場がよくわかるMV。「この曲を聞くと、あのときのことを思い出して感激する。自分が勇敢な台湾人であることを誇りに思うよ」という書き込みが並ぶ。(筆者はその投稿を見て感激してしまうのだ)

おすすめの楽曲

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島嶼天光 Island's Sunrise』楽曲のみ

 

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『晚安台灣 Good night! Formosa!』=晚安(おやすみ)台湾

 

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『長途夜車 Southbound Night Bus Lyric Video』長距離バスに乗って自分の故郷に帰る若者たち。その長い道のりは人生のようだ。

 

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海上的人 A man on the sea』台湾語の音の特徴がわかる楽曲。

 

 

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『百年追求Cycle of Freedom Soul』百年をかけて自分たちの自由(=民主主義)を人権を追求しつづける。映像の中に、台湾を自由に導いた革命家のひとり鄭南榕(ジェン・ナイロン)氏の姿が登場する。

 

【おまけ】

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『石垣好朋友 Re:Hellow』リードヴォーカルの楊大正が石垣島にバイトに来て、メンバーがあとからやって来てライブをおこなうというストーリー。

石垣島の「呉屋青果」、浜崎町にあったコンビニ「ココストア」(今はファミマになっている)、ネパールカレー店、美崎町のメインストリートなど、なんてことない風景だけれど、石垣島を知る人が見るとロケ地を楽しめるMVになっている。

楊大正は感激屋らしくライブ動画で泣いているのをよくみかける。ここでも例外なく。滅火器 Fire EX. のほぼすべての楽曲制作を担当するほどの人ですからね。