あまはじノート

amahaji note

映画「人生フルーツ」と書籍「ききがたり ときをためる暮らし」

映画『人生フルーツ』公式サイト
写真:田淵陸深(たぶちむつみ)

映画「人生フルーツ」は、愛知県春日井市高蔵寺(こうぞうじ)ニュータウンに住む津端(つばた)英子、修一さん夫婦の日常の暮らしを映像にまとめた作品。


英子さん修一さんのふたりは、更地だった300坪の土地に、自分で設計した家を立て、土を入れ種をまき、野菜を作り、花を咲かせます。ナラやクヌギケヤキ、ムクなどの木々は、今では立派な雑木林を作るまでになりました。

土を作り作物を育てる毎日を「ときをためる暮らし」と称し、春夏秋冬、朝昼夜、めぐる季節と時の中で、農作業と手作業にはげみます。

風や光、鳥の声、ふたりの暮らしを撮影する中で起きた大きなできごとも、躊躇することなく映像におさめています。

筆者の感想
ふたりの姿をさまざまな視点からとらえるカメラ、その映像と編集、テキスト、音楽、ナレーション(樹木希林)のすべてが過不足なく作られた作品。

日々の暮らしを淡々と追いながらも、長い時の流れが背景にあることを感じさせてくれる構成もいい。公式サイトのトップ画像(田淵陸深撮影の上記写真)がすべてをものがたっていると思う。

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www.youtube.com

映画「人生フルーツ」は、東海テレビ制作。この東海テレビ。秀逸なドキュメンタリーを撮ることで知られています。今後もDVDや配信の予定はないので、近隣の上映会でみてください。

劇場情報 | 人生フルーツ

自分で上映会を企画するのもいいかもしれません(1日40,000円から)。公共の施設(会議室のような場所でもいい)なら、料金が格安ですしスクリーンや音響設備もそろっています。

自主上映|映画『人生フルーツ』公式サイト

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書籍「ききがたり ときをためる暮らし」

ききがたり ときをためる暮らし « 自然食通信

つばたさんたちは、自分たちの畑をキッチンガーデンと称している。畑は修一さんが考えた区画に分けられ、黄色い看板が立てられている。あとの人たちにお金は残せないけれど、土だけは残せる。「だから、いい土をつくらないとね」と。

種を撒いて苗を植えて育てる、という意味においては”農業”なのだけれど、このふたりの作業は、目には見えない端正な建築物をつくっているかのようだ。

聞き手(水野恵美子)と写真家(落合由利子)のふたりが、つばたさんの家に通い英子・修一さんのふたりの話を聞き写真を撮りながら完成した1冊。自然食通信社の発行(2012年)。

落ち葉の落ちる秋、雪が少し残る初春(初冬かも?)、とうもろこしやトマトが収穫できる夏。最初から最後まですべてが、英子さんと修一さんのことばで構成される。

ききがたりをまとめる手法がうまく、話し声がそのまま聞こえるよう。気負いなく撮られた写真も美しく、しっかりといい仕事をされている。

個人の感慨になるが、最近この書籍のように10年ぐらい前に出版された本を読むとほっとすることが多い。この書籍が出たのは、大地震原発の爆発があって混乱していた時期だけれども、この混乱の時期ですら(今にくらべて)まだ希望があったのだなと。

今となっては、さまざまなことの取り返しがつかなくなったこの国で、つばたさんたちの映画を見たり書籍を読み返したりすることは、とても質のいい時間になると思う。以下、筆者が気になった箇所を引用します。

雑草のように僕らはタフなんですけれど、内心、とても弱虫なもんですから。こうやって生き延びる資質でいちばん大事なことは、弱虫ですね。

「ききがたり ときをためる暮らし」」p.3の修一さんのことば

 

《英子のひとりごと》ヨーロッパを見本にすればよかったのに、アメリカを見本にしちゃったから……。日本みたいに小さな国は、アメリカを見本にしていたらダメよね。

p.90より

 

彼曰く「世の中のしきたりに流されて従って流されて生きていると、決して幸せなことにはならない」と。そこで冠婚葬祭の一切はやめよう。盆暮れの贈り物、付け届けも一切しないということで、結婚生活をスタートさせたんです。

p.175 英子さんのことば

映画も書籍も、おすすめ。