『ガパオづくりの仕事 聖斗(まなと)さんの1日』(埼玉福祉会 出版部)
※「仕事に行ってきます」というシリーズのうちの1冊
20才のころ交通事故にあい、高次機能障害や体の右半分のマヒが残り、視力や記憶力が弱くなったという聖斗(まなと)さんという人の、1日の生活、仕事や家での様子を紹介しています。
※タイトルの”ガパオ”について
聖斗(まなと)さんは、仕事でレトルトのガパオをつくる仕事をしているのです。
写真と短文で構成された、写真日記のようなつくり。
やさしく読みやすい表現を意識して作られているせいか、ぱらぱらっと中をのぞいただけでも、ものすご~くほっとした。
明快でやさしい文章は、緊張せずに読める。
写真は、余計な加工と装飾がなく、見ていて気持ちがいい。
本に、「今まで、ごくろうさん!!(=本を読むのって労力必要やんね~)」と言われたみたい。
読みながら、「無理せんでも、ええよ~。ええよ~」とねぎらわれたように感じて、楽になった。
じつはこれ、『LLブック』というジャンルの本なのだそう。
LLは、スウェーデン語のLättlästレットファーストの略語で、<読みやすくて、わかりやすい>という意味です。<知的障害のある人や、母語の異なる人などに、年齢にあったさまざまなテーマを読みやすく、わかりやすく届けたい>がLLブックのコンセプトです。
確かに。
本文の文字は太く、適度な余裕を持たせた字間。行間も広く、漢字にはフリガナ。また、一文を短くする工夫もされており、最後部の解説文にも、フリガナが入る。
本を読んで、体感で楽になれたのは、はじめてかもしれない。
筆者は最近、松本大洋(たいよう)先生の『東京ヒゴロ』という漫画を好んでいる。
『東京ヒゴロ』は、静けき登場人物たちが、静かに葛藤し、静かに日々をおくる、静かな物語。
(その静けさの背景には、とてつもない創作の情熱が存在するのですが)
最近は、こういった本だけ(大きな刺激のない)読んで生きていたいと思うようになっていたけれど、この『LLブック』のシリーズも仲間にいれたい。
図書館の、文字が大きい本のコーナーで、”ガパオ”の文字にひきよせられて開いてみたら、きらきら光るものがはなたれた。
この本で、写真を撮っているのは、繁延(しげのぶ)あづささんという写真家。手ざわりのある写真を撮る人です。繁延さんについては、別記事で紹介しています。
※こちらの『ホテルの仕事 光さんの1日』もよかったです。
www.saifuku.com
なんらかの理由で、弱かったり敏感だったりする人が、もっと楽に読める本が多いといいです。
※LLブックは、図書館に収蔵されていると思います。
(余談)
・この本をきっかけに思い出したのが、台湾のテレビ。台湾では、会話部分に字幕が入ることが多いのですよね。
台湾には、さまざまな言語を話す人がいるので、異なる言語(家族の中でも違ったりする)の人が少しでも理解しやすいように、もちろん耳の聞こえない方にもわかるようにという配慮なのだと思います。
筆者は、耳からの情報が受けとりにくい傾向があるので、字幕にはかなり助けられました。
米津 玄師『サンタマリア』